保守派の設計主義批判は的外れではないか?

保守系論壇で、設計主義という用語が流行っている。設計主義とは「知識人の考えた理念に基づいて社会が設計されるべき」という思想と解釈されていて、左翼思想の批判に使われる。 設計主義への批判は、「現実社会の欠陥を直すために、理想的な社会を設計して、それを実現すべきである」という左翼的な発想は、「現実は理想よりもはるかに大きい」というリアリズムを無視し、設計したように社会は動かないばかりか、時には理想とは逆の方向へ社会が動くこともある、という歴史的教訓に由来している。

たとえば19世紀・20世紀のマルクス主義運動・共産主義運動は、資本家-労働者を搾取する側ー搾取される側ととらえて、それを乗り越えた社会を設計し、実現しようとする運動だった。少なくとも内的な衝動は理想主義的なものであったわけだが、現実は資本主義社会よりも、はるかにひどい社会しか生み出さなかった。

それに対して保守主義者は、伝統を重視する。なぜなら、「伝統とは、意図的に設計したものではなくて、歴史の風雪にさらされ、有益で残ったものなので、むやみに変えるべきではない」と考えているからだ。

しかしこれは的外れの論議だ。というのも保守主義者が主張する伝統も、過去において設計されて、少しずつ修正されてきたものだからだ。このような的外れな論議が起きるのは、おそらく設計主義の定義が、原義とは違うものになっているからだ。

設計主義は英語の constructivism あるいは constructionism の訳語として使われだしたようだが、constructivism も constructionism も、本来は構築主義、あるいは構成主義と訳されるべき単語だ。だから哲学や社会科学・心理学などの学問分野では構築主義、あるいは構成主義と訳されている。そこには「知識人の考えた理念に基づいて社会が設計されるべき」という意味は、ほとんどない。「社会は人間の精神によって構成(構築)されたものの反映」とでもいう意味である。

次のように英語の原義を順に見ていけば、すっきりするのではないかと思う。

constructionism/constructivism は construction から派生した言葉である。construction つまり「建設/建築」という意味だ。社会や文化を建築物に例えたともと考えても良いだろう。さらに、construction は structure から来ている。 ビルの構造というときの構造だ。それを文化構造や社会構造の構造にあてはめる。我々は、ある社会構造や文化構造の上で生活している。こういう構造を分析するのが構造主義(structuralism)という学問だった。構造主義の対象は「すでにできあがっていた構造」で、社会・文化の上では伝統文化・伝統社会だったわけだが、それを乗り越えるのが deconstruction 「脱構築/脱構造」で、ポストモダン思想なわけだ。deconstruction して、新しい社会・文化を創ることが reconstruction だ。

constructionism や constructivism は、この reconstruction という意味で使われているんだと思う。再構築・再構成という意味だが、かならずしも「知識人の考えた理念に基づいて社会が設計されるべき」という意味なわけではない。新しい物や制度を作るという意味だから、「知識人の考えた理念に基づいて社会が設計する」だけでなく、「伝統的な社会を修正する」という意味も含まれるだろうし、「伝統的な社会を復活させる」という意味も含まれるだろう。

このように設計主義を本来の意味である構築主義・構成主義として定義し直すと「知識人の考えた理念に基づいて社会が設計されるべき」などという批判は、あまり妥当ではないと思う。最初に書いたように、保守派が肯定する伝統的な文化・社会制度も過去において construct 「設計された」ものだからだ。

ここで右翼と左翼、左派と右派、保守と革新の構造をもう一度考え直す必要があるだろう。次回はそれについて書く。



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     (2012年05月14日:
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